忘れられない苦いバイトは「磁器の絵柄を描く」というアルバイト

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磁器に絵柄を描くという少し変わったアルバイト体験談の紹介です。イラストを書いたりするのが好きな人にはいいかもしれませんね。

忘れられないアルバイトがあります。大学をやっと卒業し、友人を伝って隣の市に移り住んだ頃でした。何かアルバイトをしないといけないなと思っていた矢先、タウン誌に「絵付け関係のアルバイト」という記事があったのです。

絵付け関連アルバイトの仕事内容

磁器の絵柄を描くという内容でした。学生時代の専攻が美術関係でしたので、やれるんじゃないかと思って面接を受けることに決めました。電車で二十分ほどで行ける隣の市の、駅のすぐ横の会社です。ラフな格好の社長が直接私の面接を担当し、話によると会社を立ち上げたばかりで、これから商品化できるものを開発するということでした。

  • 商品は日常的に使う器が中心
  • その器に使える絵柄のデザインを頼みたい
  • 時給制ではありません
  • 出勤時間も決まっていません

求められたのはできるだけたくさんの絵柄

具体的にどのようなことをして、どういう報酬になるのかという話になったのですが、こう言われたのです。どんな大きさの紙にでもいいから、絵柄を書いてきて欲しい。メモ用紙でもいい。一つの図柄に対し五円支払うというものでした。10枚描いて50円ですからこれがバイトと言えるのだろうかと思ったのです。

そのあと社長はこう言いました。

「君しかいない。腕次第では単価も上げていく。いいものができたら商品化もする。そうすれば君の収入は上がっていく。」

やる気が出るも、電車代で赤字

何となく期待感がわいてきて、やる気が出てきました。私は描くだけでなく、図書館に行って伝統的な磁器の図柄をトレーシングペーパーで写し取ったりしました。たくさん収穫を得ることができると考えたからです。しかしかえって時間を取ってしまいました。出来上がったら数十枚を持って行く、電車代で赤字になる。この連続でした。

次々と減っていくアルバイト

ある日会社の階段を上がってある部屋を覗いたら、数人が黙々と絵を描いているのです。同世代でしたので声をかけてみました。机の上には描きかけの絵付けの図柄があるのです。私と同じことをしているわけです。社長は面接で「君しかいない」と言ったのですが、同じような人がたくさんいたのです。社長の戦略でした。それでもがんばってみたのです。一人減り二人減り、ひと月ほどで私が声をかけたギターが好きだと話した彼と、私の二人しか残っていませんでした。

膨大な数のデザインの中から一つぐらいは商品化できるものが生まれる

事務所に顔を出せば、事務担当の女性は私に長時間社長への愚痴をこぼします。あまりに長いのでいつもくたくたになりました。ギター好きの彼は配送担当になりました。絵柄のデザイン担当は私だけになりました。

膨大な数のデザインですから一つぐらいは商品化できるものが生まれるのです。器の型を作る担当とのコラボで一つが商品化されました。社長から聞いたのではなく愚痴ばかりこぼす事務担当の女性から。製品化された喜びよりも疲労感の方が強かったのが本音です。報酬に反映されている実感も乏しかったこともありました。

そして、退職

その頃、あるお世話になっていた先輩から、資格を取れ、将来に行かせる資格を取れ、今しかないぞ、そう毎日毎日言われていたのです。何となく潮時かなと思い、私はこのバイトを辞めました。評価されることが最も大事とは思いませんが、せめて喜びを感じたかったのです。このバイトはどちらかというと苦いものを私にもたらしました。